ちょっと待て。誰がそんな事言い出した
京都の貴船神社は縁切りのご利益があるという事をSNSやブログ等で囁かれています。 貴船神社の公式ホームページにはそんな事全く書かれていないにも関わらず。

僕は以前祇園四条辺りにある縁切り神社でご利益を授かった事があり、以前やっていた京都ブログでも縁切り神社の記事を書いた事があるので、縁切り神社に関しては色々と調べてきたつもりです。

なので「貴船神社は縁切りのご利益がある」という話も非常に気になっていました。

そして縁切りの根拠となっている話を1つ1つ調べた結果、貴船神社に言い伝えられている話をチグハグにつなぎ合わせているだけだという事が解りました。

「呪いが云々」「復縁が云々」「SNSで効果があったという体験談を語っている人がいた」「縁結びとはすなわち縁切りだ」等々。

今回はそれらの根拠となっている話を掘り起こし、縁切りとは全く関係が無いという事を証明したいと思います。

そして、本当の縁切りとはどういうものなのか?という事もお話ししたいと思います。



縁切りと噂されている3つの根拠

貴船神社が縁切りのご利益があるとされているのには次の3つの根拠から来ています。

貴船神社が縁切りだと噂されている3つの根拠
1.丑の刻詣りで呪われている説
2.縁結びはすなわち縁切りだ!説
3.実際にSNSで縁切りの効果があったという体験談を語っている人がいた
それらを1つ1つ説明していき、縁切りとは関係ない事を証明していきます。


1.丑の刻詣り ―うしのこくまいり― で呪われている説

大昔の話ですが、貴船神社は丑の刻詣りという参拝が行われていました。

一般的にはわら人形を五寸釘で突き刺す呪術とされていて、実際に貴船神社でもそのような事が行われていたという伝説が残っています。(宇治の橋姫 謡曲「鉄輪」より)

しかしながら本来の丑の刻詣りというのは、祭神(貴船明神)が丑年丑月丑日丑刻に降臨されたというもので、そして本気で神様に願った事は本当によく叶うという事を表すものです。

この事は貴船神社・奥宮の立札にも書かれていて、「心願成就に霊験あらたか(凄く効果がある)」という言い方で書かれています。


奥宮の立札。ひと言で訳すと「呪いじゃねーし。」


丑の刻詣りがそもそもは呪いでは無いという事はお解り頂けたと思います。

しかしその霊験あらたか(凄く効果がある)が故に、そして宇治の橋姫を模倣して大昔にガチでわら人形を五寸釘で打ち付けに貴船神社までやってきた人もいないとは言い切れません。

そしてその呪いの怨念が現在も渦巻いていないという事は僕はそういうのが敏感ではないので実の所は解りません。

しかし「呪われてるから縁切りなんだ」という理屈はあまりにも飛躍のし過ぎではないでしょうか。

縁切りという話は一切出てきていませんし、「縁切り=悪いもの」という前提になっているのが僕にとってはすごく引っかかる部分でもあります。

後で詳しくお話しますが「縁切り」と聞くと「奪われた恋人と新しい相手の人の仲をズタズタに切り裂いて下さい」的な禍々しいものをイメージしがちですが、そもそも縁切りというのはそういう禍々しいものではありません。


現在もわら人形を五寸釘で打ち付けている人がいる?

そして中には「現在も丑の刻詣り(五寸釘バージョン)を行っている人がいる。」と主張される方がいらっしゃいます。

確認した訳ではありませんが、僕はその可能性は低いと思います。

まず、丑の刻詣りの「丑の刻」というのは午前1時から3時までの事を指します。 そしてその時間帯に神社の御神木に7日連続でわら人形に五寸釘を突き刺さないといけません。(2日目くらいで「何やってんだろう」ってなると思います。)

貴船神社の本殿は「本宮(ほんぐう)」「結社(ゆいのやしろ)」「奥宮(おくのみや)」と三社あるのですが、丑の刻詣りが行われた(祭神が降臨された)のは奥宮になります。

奥宮は、というよりも三社とも午後6時、季節によっては長くとも午後8時に閉門します。

それでもやるというのなら、何かの法律に引っかかるのを覚悟で敢行しなければいけません。


奥の宮の門。脚立等を使えば侵入できそうですが…。


ちなみに奥宮の御神木はこちらになります↓



2本の木が1つになっているのは夫婦和合や男女が仲睦まじい事を表し、またそういうご利益があると祀られている事が多いです。

また、違う種類の木が1つになっているのは特にレアとされています。

何て皮肉な運命なんでしょう…。そんな御神木に対してそんな禍々しい事をするなんて…。

更に言うとこの御神木は少し高い所にあり、実際に敢行する場合はよじ登らないといけません。それらの危険な行為を七日連続で行うのはさすがに難しいでしょう。

ちなみに、本宮・結社・奥宮以外に御神木がある所があります。





結社と奥宮の間にあり、ここは門が無いので24時間立ち入る事が出来ます。(というよりも既に奥宮ではないので、ここでやる意味が無いと思うのですが。。)

近づいて見るとこんな感じです↓



これだけ長い時間伝説として語り継がれている丑の刻詣りなので、本当にやっている人間がいたとしたら、恐らく木は穴だらけになっていると思います。奥宮と言い、この御神木と言い、そんな様子は見受けられません。

なので現在も丑の刻詣りが行われている可能性は低いと思います。

ちなみにこの御神木も同じ根から2本の木が生えていて、夫婦共に長生きするという意味が込められています。




ここまでのまとめ
・丑の刻詣りはそもそも呪いの儀式ではない
・呪いの儀式が一般化してしまって、そちらが主流になったとしても縁切りとは関係ない
・縁切り=相手の不幸を祈る事ではない(絶対におすすめしません)



2.縁結びはすなわち縁切りだ!説


貴船神社を散策していると「和泉式部(いずみしきぶ)」という名前をよく見かけます。

平安時代の歌人で夫婦仲が悪くなってしまった際に貴船神社(結社)にお参りし、見事に夫婦関係が修復されました。(これは諸説あり、この方も色恋沙汰が多かったみたいです)

結社は良縁を授けてもらえる神社なのですが、和泉式部の事もあり、復縁に関するお願い事をされる方もたくさん訪れます。

貴船神社が縁切り神社だという2つめの根拠は「復縁というのは相手と相手の新しい恋人の縁を切って、こっちに戻ってくるという事から縁切りのご利益があるという事になり、なので縁結びは縁切りだ」という理屈になるそうです。

復縁と縁結びがごっちゃになっていますが、1つづつ見ていきましょう。

まず復縁に関しては、そもそもの前提が「相手から奪う」発想になっていて、別れの原因は全て「相手に奪われた発想」になっています。

別れの原因はそれだけではないでしょうし、むしろ少数派だと思います。

もちろん奪われてしまったという事もあると思います。それで復縁を願いに貴船神社まで来たとしても、目的は「復縁」であって縁切りではないはずです。

仮に「相手と相手の新しい恋人の仲が切れますように」と願って叶ってしまったとしても、相手が再び自分の所に戻ってくるという事にはなりません。

縁結びもしかりで「誰かと結ばれるという事は元々居た所との縁が切れてこっちに来るのだから、縁結びはすなわち縁切りなんだ」というのが言い分なのですが、そんな二次的な要因まで持ち出したら、全ての神様は大概のご利益がある事になります。

それにその理屈で行くと、全国津々浦々にある縁結び神社は全て縁切り神社という事になります。

貴船神社の近くに住んでおられる方ならまだしも、何かの縁切りを願いたいのなら近所で評判の縁結び神社に行かれれば良いと思います。

そして何度も言いますが、縁切りとは自分以外の誰かと誰かの縁を切る事ではありません。


3.実際にSNSで縁切りの効果があったという体験談を語っている人がいた

とはいえ、実際にSNSで「貴船神社の縁切りは凄い効果だ!」とご自身の体験談を語られている人もいらっしゃいます。

これは1.で言ったように「心願成就に霊験あらたか」故にという事ではないでしょうか。

心願成就ですから、縁切りの効果あるでしょう。


本当の縁切りとは?

「縁切り」と聞くと、何か縁起が悪い事を連想しがちですが、実際の縁切りはそういうものではありません。

冒頭でもお話ししたように、僕は祇園四条辺りにある評判の良い縁切り神社でご利益を授かりました。

その神社の名前は「安井金毘羅(やすいこんぴらぐう)」で、主祭神(一番メインの神様)は崇徳天皇(すとくてんのう)と言います。

安井金毘羅が縁切り神社となったゆえんは、崇徳天皇がいくさによって(※)奥様と別れざるを得なかった所からきています。(※正確には寵妃―ちょうひ―と言い、奥様ではないのですが)

「自分のように悲しい思いはさせたくない。」

そんな思いから幸せな男女の縁を妨げる悪縁を断ち切ってくださるというのが由緒になります。(崇徳天皇が四国の神社で一切の欲を断ち切って昼夜祈り続けた事から、元々「断ち物」の神社として有名だったのですが)

縁切りとは幸せを妨げる悪縁を切るというのが本来で、自分以外の誰かと誰かの仲を切り裂くものではありませんし、夫婦やカップルで縁切り神社に行っても二人の縁が切れてしまうという事でもありません。

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